妊娠中から産褥3カ月は、女性ホルモンの影響で消化管の蠕動運動が低下すること、妊娠中は特に子宮が増大するために大腸の圧迫などが起こることで便秘をきたしやすいのです。
女性には妊娠前から便秘でお悩みの方も多いと思いますが、全く便秘と縁がなかった方でも便秘になることは不思議なことではないと言えます。
便秘とは
そもそも便秘はご本人の体調や状況により病的と判断しにくいため、長らく定義がありませんでした。
現在の「便通異常症診療ガイドライン2023慢性便秘症」でも必ずしも診断基準に従って治療開始しなくてよいとされています。特に妊娠初期はつわりになることが多く、食事量が少なければ、排便量・排便回数が減るのは当然ともいえます。
妊婦さん自身の腹部不快感や腹部膨満感があれば、治療開始してよいと思います。一方、つわりの時期もすぎた妊婦さんで、妊娠前から慢性便秘があり、便が硬くいきまないと排便できない方は状況が妊娠前と変わらないという場合でも治療を行う方が無難でしょう。
硬便があるのに治療をしていない場合には妊娠安定期以降でも腹痛を訴えていらっしゃることは比較的よくあることで、出血を伴うことさえあります。ふだんから慢性便秘があっても妊娠中は硬便を避けるべきだと思います。
生活習慣の改善も良いことですが・・・・
便秘対策として水分の補給をされている方も多くいらっしゃいます。また、食事内容の見直しとしては、野菜・果物、海藻、こんにゃくなど食物線維が豊富な食材をとり入れるのも良いと思います。
その他にも切迫症状(腹部張り感)がなければ、散歩などの適度な運動も効果的と言えます。しかしながら、私の経験的には、生活改善しているとおっしゃる妊婦さんの中に切迫症状を訴えて来院される方は多いようにも感じています。
個人的には、妊婦さんや授乳婦さんは無理せず、硬便が時々あるというかたは緩下剤に頼ってよいと思います。薬物の不使用に固執して、生活習慣改善にばかりこだわって、結果としてお腹が張って、切迫流産・早産の治療を受けることになっては本末転倒だと思います。
おすすめとしては・・・
下剤は大きく分けると緩下剤と大腸刺激性下剤の二種類があります。
妊婦さん・授乳婦さんの下剤として、第1選択薬には緩下剤である酸化マグネシウム(「マグラックス」など)が広く使われています。この薬は腸内の水分を増加させ、便を増大・軟化させます。結果として腸蠕動が促進されて排便に至ります。薬の成分は腸管からほとんど吸収されず、作用もゆっくりで、腹痛が起こりにくいため、妊娠中にも使いやすいと言えます。
また、習慣性がなく、長期連用が可能であり、安心して使えます。コロコロした便が少量しか出ない方や、便が硬い方にとっては非常に有効です。
便秘・下痢を繰り返す場合
また、便秘・下痢を繰り返す方もいらっしゃいます。このタイプの場合は状況にもよりますが、漢方薬を使ったり、ビオフェルミンなどの整腸剤を使ったりもします。
整腸剤は腸内細菌のバランスを整えるメリットがあると同時に、副作用の心配がないのも特徴のひとつと言えます。便秘でも下痢でも腸内細菌のバランスが崩れていることが多いため、どちらの症状にも整腸剤は安心して使うことができます。当院では整腸剤はビオフェルミンを処方しています。
緩下剤でも整腸剤でもすっきりしない場合
酸化マグネシウムもビオフェルミンも使っているがすっきりしないという方もまれにいらっしゃいます。その場合は大腸刺激性下剤の処方を検討します。
大腸刺激性下剤はその名の通りに大腸を刺激して腸の蠕動運動を活発にします。また、大腸での水分吸収を阻害して、腸内容物の容積を増やすことで排便を促します。
緩下剤と比較すると、作用はやや強く、腹痛をきたすことも少なくありません。習慣性もあるため屯用で服用し、なるべく短期間のみ使用することが多い薬剤です。
とは言え、緩下剤や整腸剤を使っても排便できない、すっきりしないという場合は大腸刺激性下剤を使っていただいた方が良いと思います。ご心配なら、ご相談下さい。
当院ではラキソベロン液を用いることが多く、緩下剤と併用するため、就寝前にコップ一杯の水に5滴滴下して内服することから始めていただいています。
産褥3カ月以内の褥婦さんの便秘
産褥3か月まではホルモン状態は妊娠中と変わらないため、便秘にはなりやすいと言えます。
便が硬くていきみすぎてしまうと、ひどい痔になってしまったり、子宮自体が膣口付近に下がってきてしまったりすることがあります。産後の便秘にもお気をつけ下さい。
それでも頑固な便秘の場合・・・・
最近は便秘薬も新しい薬剤も発売されるようになり、選択肢が広がりました。
便秘がなかなか改善しない場合は新しい下剤も検討します。効果の強いものや味がまずいと言われるものもあるため、ご本人の症状や状況に合わせて治療を行っています。
まずは便秘があれば、ご相談をお願いいたします。